『不幸の上には不幸?』
僕はルー・シャド19才。前夜祭から家への帰路のまっただ中です。
「はぁ……明日からどうしよっかな」
明日どんな顔をしてあえば良いんだろう、気まずいなぁ。
彼氏持ちだなんて知らなかったよ。しかも相手は王族の人だし。
悪い人じゃないだろうけど……はぁぁ。自分がまったく情けない。
強く迫れないしすぐ諦めちゃうから。
『ヒュウッ』
夜風は冷たい。もうすぐ冬が来るなぁ。
今年も1人悲しく過ごさないといけないのかな。つまらない。
「うー……寒い」
でも11月近くってこんなに寒かったかな? これでも寒さには強いほうなんだけど。
「これじゃまるで真冬……」
身を切るような冷たさ。この国は温帯だからまだ10月の終りでもこんなに寒いことは。
「……いよ、地に氷花をさかせよ!」
え? 誰かの声がする。なんだろう。
……? さっきよりも冷気が増した。
「な、なんなんだ一体……」
『ヒュウウウ』
体がずっと震える。うう、早く帰って暖炉の火で暖まろう。
『ビキッ』
足を動かそうとするけれど、動かない。なんだ……?
レンガ造りの道は霜が降りたかのように白くなっている。足下を見ると僕の足は。
「なっ!?」
凍りついてる。一体どうして。どんどん空気は冷たくなってくる。
そしてドンドン足下の氷は体を包み込んで──
「うわぁぁぁ!!」
生きたまま氷づけだなんて! 凍死するかもしれない。
そう考えるとゾクッとした。いやだ、死ぬなんて。
体はもう完全に動かなくなった。前のめりにこけることもない。
いくら僕が寒さに強いとはいっても限界はある。意識は薄れていった。
完全に記憶を失う瞬間、ピンクのマフラーが目の端に映ったような気がした。
「ん……?」
目をあけて真っ先に映ったのは白。……あれ?
僕は顔だけ動かしてまわりを見た。どこだかわからないけど。
少なくとも僕の家じゃないだろう。おかれている家具や調度品。
どれも白系統のものだった。僕の部屋はだいたい緑のものが多い。
そういえばベットも、いつものよりも少し固い。
……眠いな。それに体もだるい。頭がぼーっとするし、体が火照ってる気がする。
でも良かった。死んでなくて。ベットの中で目覚めることができて良かった。
今度は安心して、眠りについた。今は全部忘れよう──
あれからどれくらい寝てたんだろう。
ベットから上半身だけ起き上がらせてまわりをよく見てみる。
ああ、ここは病室。まだ少し眠い、今は気が済むまで寝たい気分だ。
『ガチャッ』
ドアが開いた。……ノックくらいするのが礼儀じゃないか?
誰――入ってきたのは長いピンクのマフラーをしている女の子だった。
「君、誰?」
知り合いにこんな子はいないし、覚えがなかった。
「あんたに関係ないわ」
むかっ。ここは個室だ。僕以外に人はいない。
「だったら出ていってくれないか?」
部屋を間違えたのならさっさとでていって欲しかった。
でも彼女は動こうとはしない。
「うっさいわね、ほら!」
そういってずいっと僕に大きな紙袋を差し出した。
「はぁ?」
あまり誰かから物は受け取りたくない。
見知らぬ女を助けた時お礼にくれた銀時計が実は盗品だったということがあった。
幸い柔軟な貴族の人のものだったから良かったものの……
その盗人と口調や態度が似ているからなぁ。
「いやだ。知らない人から受け取りたくない」
そういうとキッと僕をキツイ目で見据えていった。
「あんたは黙って受け取れば良いの! あたしは早く帰りたいのよ」
偉そう。命令口調だ。帰りたいなら側にある机に紙袋を置いて帰れば良いじゃないか。
「じゃ、聞くけど。どうして僕に渡そうとするんだ?」
彼女はあくまでも僕に受け取ってもらわなければならないらしい。
「それは……」
そういえば僕がここのお世話になる原因は、あの後氷に閉じ込められたからなんだろうな。
普通自然現象でそれは有り得ない。となると、誰かが氷の魔法を使ったせい。
あの声は高かったし意識を失う瞬間目の端に映ったマフラー。
今目の前にいるこの子が原因ということになる。
でなければ知らない僕の見舞になんてくるはずがない。
「別に良いよ。ただ言うだけ言って帰るなら。置いて帰ってくれても」
まあ、絶対中身は見ないけど。ただ物を渡すためだけに来たのなら。
謝る気はなさそうだし。
「わ、悪かったと思ってるわよ。だから早く治しなさい」
目線をそらしつつ言った。頬がわずかに赤くなっている。
「あー、そう」
反省はしていたらしい。
「何よその口調! あんたずっと昏睡状態だったのよ!?」
そんなにも? 窓の外を見るとモミの木に雪が降り積もっていた。
どうやら一ヶ月以上は軽く眠りほうけていたらしい。
はっ。時計台の管理! ああ、でも鈴実がしてくれているかもしれない。
「だから……」
聞き取れない程の小さな声で何かを呟かれた。
「え?」
「とにかく! あんたの為にいろいろと良いものを持ってきたのよ、受け取りなさい!」
すっかり顔は真っ赤になっていた。意外と恥ずかしがり屋なんだろうか?
害はないかもしれない。こんなに真っ赤になってまで嘘をつく人間はいないだろうから。
「うん、ありがとう」
そう言い受け取る。中身を見ると薬やら包帯やらいろいろ詰め込まれている。
僕が笑顔を見せると彼女は何も言わず部屋をでていった。
後から知ることだけど、彼女は2日に一度は見舞に来てくれていたらしい。
僕がなかなか意識が戻らないものだから、とても心配していたとも言われた。
全然そういうふうには思えなかったけど……まあ、良いか。
またどこかで会うこともあるだろう。
その時にお礼は言っておこう。って、彼女のせいとも言えるけど。
また会ってみたい気もする。この感じは前にも……鈴実に対する気持ちと重なる?
そういえば今はもう鈴実の事を考えても胸が痛くないような。
あの子と話したから? うーん、そういえばどうして鈴実を好きになったんだっけ。
今となっては思い出せない。おかしいなぁ……
あの子は偉そうだったけどそれは恥ずかしいのを隠すためで。
あれ? 鈴実のことじゃないのになんだか……なぜか胸が高鳴っている。
まあ、良いか。今は眠ろう。寝たかったんだから。
もしかしたら鈴実のことは自然と諦めれたのかもしれない。
失恋した後のギクシャクした思いをせずにすむ。
新しい恋はもう見つけた。あの子にあっさり掴まってしまったみたい。
|