カウンター500打礼

『アダージョ』



光奈の依頼で、僕はとある洞窟へとやってきた。
もちろん、僕一人へとその依頼はまわってきた。そのはずなのに。
「うわぁ……何か出そうで楽しみだね、キュラ!」
「どうして君もついてくるかな、レリちゃん」
どこで話を聞いたのか、今目の前にある洞窟の前でレリちゃんがいた。
彼女の言うところ僕を待っていたのだという。
僕はそこでため息をつく。依頼内容は何でもない、財宝を取り返してくること。
先月、城の宝物庫から財宝が何ものかに奪われたのだという。
その時の宝物庫の警備をしていた兵士は今も重体。
意識不明の兵士の傷口は抉られていて、その抉りようからして魔物だったらしい。

だけど、いくら人手が足りないからって僕に依頼って形で押しつけないで欲しい。
そう思うのだった。でも行かないと煩い人達がいたから、仕方なく引き受けた。
魔物の種類は多種多様で、その中にも金や銀なんかの光る物が好きなのはいる。
動物と違っているところといえば凶暴性。まあそれくらいなものかな。
だけど、並の人間が戦って勝てない魔物は多い。
剣や槍で戦って勝てないわけでもないけど、武器が貫通しない魔物もいる。
そういうことで対魔物戦の場合は魔法を使って人間は戦う。それが常套手段。
数ある魔法の中でも最も魔物に威力を発揮するのが光魔法。
でも、この世界には魔法を扱える人間ばかりじゃない。
どちらかといえば魔法を使える人は世界的に見て少ない。
そして魔物に有効な光魔法を扱える人間は教会の人間でも限られてるわけで。
光魔法を扱えるということで何かと僕は厄介ごとを光奈から任せられる。僕は見習いなのに。
なんで僕が扱えるのかはわからない。王族が使えるのはわかるけど。
というか、光魔法を扱えるのは国を統べる正統な王族の人間だけだというのに。
でも僕は王族どころか完全な人間ですらない。

と、いろいろと思考に浸っていたらランタンを奪われた。
洞窟の中は奥に進む程光が届かなくなるから、必要になる。
別に初歩レベルの炎の魔法が使えれば持っていなくても問題はないけど。
でも魔力の無駄づかいはするなと言いつけられているから持ってきていた。
目の前でカチャカチャと音を立てるランタン。僕が見つめる先にはレリちゃんが。
「早く入ろうよ!」
好奇心旺盛だなあ……元気そうなレリちゃんとは正反対に僕は元気なんてない。
けれど。うん、と僕は返事をして足を前へと踏み出した。



歓声をあげてルンルンとレリちゃんは先を進んでいく。
何が楽しいのかなあ……そんなに。と思ったところで、好きなんだっけこういうの。
とかわかったりした。ずっとワクワクしてるのは魔物との戦闘を考えてのこと。
それがわかるくらいの付き合いはやってる。そのことにふと、今気づいた。
レリちゃんは異世界の人間でたまに姉のラミさんに会いに来てる。
そのついでにか、ふらりと僕のとこにも来る。そしてまた自分の世界に帰る。
その繰り返し。でも、こんな何気ないようなことが僕には珍しくて。
ずっと疎まれ続けていたから、そんな経験なかった。
皆、正体を知れば冷たくなるから。姉さんといつも2人暗い闇の中だった。

でもいつかは闇の中から抜け出せるものなんだね。

僕は隣を歩くレリちゃんの顔を見つめた。本当に楽しそうに笑ってる。
「どうしたの?」
僕の視線に気づいたレリちゃんは首を少し傾げて、逆に僕が見つめられた。
「ん……? ううん。なんでもないよ」
本当はなんでもない、ってわけでもないけど。
変なの。レリちゃんはそう呟くとまた前を向いた。僕のことなんておかまいなし、かな。
そうだね、と僕が相槌を打ったらぐるりと顔を回転させてレリちゃんが口を開いた。
「そこ頷くことじゃないよ!」
「あはは……」
やっぱりそう来るなぁ……自然と苦笑いにも似た笑みが浮かんだ。うん? 自然と?
「あ、笑ったー」
僕を見てそう言ってる顔はまた笑顔。
「レリちゃんだって笑ってるよ」
「だって珍しいもん」
「え……?」
一瞬、僕を見つめるその表情の僅かな変化にドキリとさせられる。
「楽しそうだよ、キュラ」
僕が苦笑いしてるの見たら何だかつられて笑っちゃう、と言われた。
「キュラが苦笑いしてるのって、楽しい時だけでしょ?」
楽しそう、か……確かに楽しくて笑うなんてこと滅多にないよ。
いつも僕は愛想の良いような、張り付いた笑みを浮かべてるから。
そうしないと耐えられそうになかったからかも知れない。
弱みを見せたらとても生きていけなかったから。
だから僕が苦笑いを浮かべてる時こそが楽しい、ということ。



魔物を倒すのにあまり時間はかからなかった。
僕らは件の財宝、正しくは奪われていた金品を袋につめて持って帰った。
それをちゃんと城にいる光奈に渡して依頼は無事、終了した。
城を出て空を見上げるとゆるやかに太陽は水平線のかなたへと沈んでいくところ。
それを見届けながら帰路へと帰っていく。そこでは影が2つ伸びていた。











――――――――――――― fin. ――――――――――――――――
あと書きと言う名の反省 うーん、しまってない。オチなしだ。 ええーと、元が落書きで。ホイホイっと意識せず描いてたらキュラっぽくなって。 で、横が余ってたからレリ描いてみたら会話と詩がカリカリと。そしてこれが出来上がり。 締めが終ではなくfin.なのはこっちのほうが好きだからという気まぐれ。 音楽に関連させてたりもしますが。タイトルとか……(^^ ちなみに詩は最後に置いときます。それで、キュラに語るとなるとですね。 普段よく笑ってるけど、それは無意識のうちに出る『仮面』みたいなもんで。 うーん、今だと時期的にやばかったかなぁ。本編ネタバレ的です。 辛い過去があったんですよ、ってことです。 持ちかえって良いのクロさんだけです。(いや、一応ね?)

2007/07/11 イラスト追加
おまけ。

ねえ、君は裏切らない?
僕に希望をくれたのなら信じて良いだろうか  
期待しても負担だと思わない?
君は簡単に笑うね、本当に楽しそうに
僕はそれがうらやましい
張りついた笑みをはがす君は
ゆるやかに、僕の名を呼ぶ。


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