ルネス紀行

現在──私はようやく、前世の娘を見つけた。
「無事か」
「え、ええ」
戸惑いを隠すことのないその瞳は前世とは似つかない。
何一つとして重なるものはない。
「間違いない」
しかしそれでも、わかる。
この娘を私は探し求めていたのだと。
長年の疼きが漸く止まった。
それはこの娘の前に立ったときに。
「え?」
「記憶にないのならそれで構わない」

「私はあなたと何処かであったことがある?」
「あったことはなくとも繋がりはあるな」
「だがこれで済んだ。もう繋がりは消えたな」

「ないよりは良いだろう」

「また……残していくのか」

150年前──私は、本国で生まれた。

100年前──私は、人間どもの大陸へ渡った。

13年前──私は、本国へ戻った。

10年前──私は、王から暗殺の命を受けた。

6年前──私は、王位継承権二位の王子を見つけた。

そして現在──前世の因縁と共に。
       私は、王位継承権第三位の王子を見つけた。

2年後──私は、王位継承権第一位となった王子を攫った。
     ミレーネを、自我を保ちながら肉体に戻すために。



(後に、王は突如として崩御され──代替わりが行われた。
王位継承権第一位たる王の息子が、優しき我が友が即位した。
それと共に私に与えられた任務は取り消され、暇を得た。
その中で、私は前世との決別をすべく、かの娘と言葉を交わすのだ。
ずっと、疎ましく感じていた。私の中にある誰かの想い。
それを消すためであると、信じていた。信じていたのに──
魔物が人に恋をした。あたかもそれは、悪魔が人に恋をしたようで。
前世の踏襲ではないかと、頭を振って否定したというのに)

「私の血を、」
「生き長らえて何になる。過去に抗おうとしたがこのザマだ」

『ああ、やはり。かの娘を我が腕に抱きしめれば、自然と深い息が吐き出される
これが、安堵か? 魔物である私が安らぎを感じるとは、思いもしなかった。
しかしそれは不快ではない。程良い快楽が我が身からあふれ出す』

魔物は、変化を迎えつつあるのかもしれない。
恋により子を儲け、それを愛おしいと言った皇太子。
自分には理解できぬことだと思っていたけれど。
恋い焦がれる気持ちというものを、自分も得ていたのだ。
魔物のうちで、何者よりも古くから。
それこそ、この世に生まれ出たそのときから引き継いで。

『勘違いするなよ、我が前世。私はお前に影響を受けてこの娘を愛おしく思うのではない。
私が変化を経て、この娘を私が愛したのだ。私の意思だ、貴様なんぞに左右はされない』

「……行こうか」
娘は、少し笑って私の手を取った。

『私は貴様とは違う。死後の世界まで共に歩くのだ。着けば、また別れることになるだろうが。
それでも貴様のように未練がましく次を願うことはしない。この手を掴むことが出来たのだから』