戦争に、負けるわけにはいかない。
それが理由だった。
いつの間にか、それはすりかわっていた。
素人の研究に過ぎなかったか。
それとも玄人ゆえの探求心だったか。
それは己でさえもわからなくなっていた。
ただ確かなのは、それはもう。
元に戻ることは出来ないということ。
形ばかりの目的と。
日々削られゆく抑制心。
いつからか、隠すようになっていた。
何故だと問うてもいるのは自分しかない。
愛す者を、実験にかけた瞬間。
見た表情に狂気を持っている、と知った。
過去が少し思い出されたが時は遅かった。
実験結果は失敗。
けれどだからといって生きているわけではなかった。
魂と肉体の離別の時に間違いが起きたゆえ。
また失敗した。肉体はまだ生きている時と変わらない。
だが、次第に肉体は黒ずみ灰と化すのだ。
見たくなどない。そんな物など。
妻の肉体を棺に。実験を行う部屋とは別離しよう。
他と同じように。
黒ずんでいくことに気づいたら。
「……はは、は……」
うつろな闇にただ響く。
泪が出てくることはなかった。
理性など、もう失っている。
子供たちは母の死に気づかなかった。
ただ何故なのか、と思ってはいるが口にはしない。
そうだ、それで良い。
言えばお前たちでさえも手にかけてしまうだろうから。
止めようがないのだ、刹那に沸く衝動は。
「父上!? やめてくださいっ……!」
子供たちにも手をかける時が来た。
ただ、妻のように実験にかけてではなく。
己の手で子供の首を圧迫させている。
「……っ……さま?」
そんな目で見るな、と思う。
今更ゆるめるつもりなどない。
小さな我が子を片腕で抱きながら。
片手で首を絞める。
大きな子は先程蹴り飛ばした。
扉に頭をぶつけていた。
「もう、終わりだ」
誰にむけて放ったものか。
そんなものは、理由はない。
“終わるのは、私じゃなく、終わるべきあなた”
「そう、終わるわけにも終わらせるわけにも……」
これは、私の言葉じゃない。
『 』
風が私の横を吹き抜けた。
「が、はっ…………」
背に深く突き刺さった鈍い血纏いの刃。
地に膝がつき、娘の首を絞める手がゆるまる。
私の意思がきかぬが故に。
もう絞めることはない。
もう試すことはできない。
そうだ、それで良い。
踏み超えるべき私。
ふり返らずとも、誰がやったのかはわかる。
「ル……ッ……」
それが吐き出せた最後の言葉。
そして僅かに笑んだ。
けれどそれは、もはや明るいなかにはなかった。
ああ、これが終わりというものか。
あっけなくこそ私に応じることだ。
さあ私も退こうか。待つ者のなき場所へ。
あとがき
これは異世界という設定で書きました。
ルシードの過去話。本人は人に語らないこと。
わかっていつつも止まらない、止めない。
そういうこともあるものだなと。それがテーマ。
半端で立ち止まることの出来ない人もいますから。
自分の手で終わらせれないのは意地というだけでは。
随分前から書き始めてたけれど、ようやく書き上げ。
死ぬことは、楽になるという意味ばかりではない。
かといって苦しいわけでもない。
でも残された人が悲しくなることに理由付けは野暮。
まあ天寿を全う出来たなら良いよねという話、かな。
素直に送り出せれたなら、どちらにも良いんじゃないかと。
今回の小話は天寿云々どころではないけれど。
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