あたしの周囲では人がよく死ぬ。
気に入った人間は、いつもすぐ死ぬ。
だから出会って二日目の友人なんていないし。
肉親はいない。深いった人間関係は作れない。
バイト先では人の名前なんて識別番号でしかないし。
肩がぶつかった相手なんて睨んで黙らせる。

ホゴシャという名の死に神がついてると知ったのは、十七の夜。
犯罪者みたいな、くぼんだ目をした男。
お前は蝶のように美しいから。
近づく蜘蛛は潰さないとならないんだと。
そんなのはいらない。あたし、いらない。

「汝、定められた聖女なり」
十八の誕生日を迎えたその日。
ホゴシャは、あたしを異界へ浚った。

そこじゃああたしはお姫様で。
そいつは婚約者で。
そこじゃあ、あたしは命の発行を司る者で。
そいつは命の消滅を司るもので。

ずっと婚約は口約束のままで。
契りが叶えば姫は力を失うのだと。
孤独があたしの天命だった。
あたしは嫌で魔界から逃げた。





死に神から逃れて、人の温かみを知った。
漸くあたしは世界に飛び込んだ。
幸せなんだと思った。たとえ、無理強いされても。
他人に身を任せて涙を流したとき。

瞬間顔が浮かんだ奴が、周りの全てを吹き飛ばした。
それで、また捕まえられたとき。
なんでかカンキってのの泪が出た。
変なのに、違和感なくて。
不幸せのはずの場所が一番の場所だった。

結婚することが幸福なんじゃなくて、いたい場所にいることが幸せでした。
荒廃しきった世界なのにどうしてか綺麗に見える、歪んだあたしの目。
あたしがいたいと思えたのは、その死に神の傍らだったんだ。

ああきっと、あたしは生涯ずっと純潔を守り通すのだわ。
新しい生命を作り出すといっても、この身に宿すことだけはない。
それが汚れを知らぬお姫様だというのなら。聖女だというのなら。


──そしてあたしは、不老不死を得て、魔界で永久に生きていくのだわ。



裏で考え中の設定の一つとして出していたものを移動させてみた。 主人公の女の子は暗い世界にいるけど、でもとても幸せ。 現実逃避の果てに、異世界へと逃げ込むようなかたちで「帰還」した。 そんなお話です。とてつもなくラノベですねー。 ま、不老不死を得たら活力の満ちた生活はまず送れないでしょうが。