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 ・鈴実の呟き 
 ・奏乃の呟き 
 ・『死化粧』 
 ・ラルアの呟き 
 ・レイの呟き 
 ・『したたか農民考』 
 ・『自己紹介』 



(気づかなかった。あまりに同化していたから。 何故気づけなかったの? 違いは歴然だったのに。 ……違う。気づけなかったんじゃなくて、気づかないようにしていた。 叶わないと知っていた、けれど願っていた。 可能性の一端が見えた時。疑おうとしなかった。 魔法を、理屈なんて必要ない大きな力を。 過去を振り切ることが出来なかった。だから。 もうずっと前のことなのに、まだ縛られていたの? 前世。それに対する危惧を、うまく誤魔化されていた。 あの時、よく考えていれば。示す意味に気づけたのに。 迂闊だった。でも、今は後悔してる場合じゃない。 元の状態に、戻さないと。それに落とし前もつける。 どっちだってこの状態を望んだわけじゃない。) あたしが求めたのは魔法で。呪いじゃないの。 人の心をどうこうさせる術じゃなくて。 人の姿にないものをおさえこむ術じゃなくて。 超常現象を起こして人を助けられる法で。 人を、死の淵から引っ張り戻してくる力で。 退治する力よりも、対峙しないで済む力が欲しかった。 それでもあたしの得た魔法は、霊で。 あたしにとっては、魔法じゃない力。 こんなものでどうにか出来るのかって思ったけど。 でも、この魔法でやすらぎを与えられるのなら。 身を委ねて奇跡と入れ替わってあげる。 あたしすら気づかなかったその影は。 見たことすらないけど、不安はない。
ねえ、私を生かせるのではなく私と生きてください。 一方通行であなたは私を傷つかせるんですよ。 私は事実を知りました。だからあなたの滅びを止めたい。 それが嫌なら、私も嫌ってください。 嫌われては止められない。矛盾してますか? ええ、してます。私はあなたに生きてほしい。 同じです。でも、私はその先があることを望んでる。
『死化粧』 イントロダクション。 「ねえ、レイ。────です」 プロローグ。 「いやです、どうしてみなさん私のようなただの給仕を護ろうとするんですか!」 「あなたは私たちの中で唯一の純白だった。あなたが笑うだけで清められる思いだったよ」 「みんな散り散りになって逃げれば良い話じゃないですか! そうすれば」 「それではあなたが助からない。あいつらは関わっている者を一人も見逃さない」 「ならば私一人逃げたって意味がないでしょう!」 風が、ふっとゆらめいた。優しい死化粧をしてそのヒトは笑う。 「それを意味のあるものにするために、私たちは今抗戦してるんだよ」 あなたを殺させないためになら命を使い切っても構わないと思ってしまったから、と。 「私たちは、誰もが殺人鬼。みながみな手前勝手に噛み合っていた歯車を抜いた」 けれど愚かしくも夢見た。まったくの同じ願いを胸に抱いてしまった、って。 「いつかは破滅するとわかっていた。けれど、何もあなたを巻き添えにすることはない」 これが私たちの死地。闇は闇に呑まれ、消えることもある。そうなっただけ……なんて。 「私たちが全員死ぬのはあいつらを壊滅させてから。生き残る者はあなた以外、出ない」 相討ちに持ち込むことは何よりも簡単だ、と言い捨てて。 私たちにあなたを生かすことは出来ないけれど、死なせはしないから。 生きることは自分でしてほしいと、後ろ姿に裾を掴ませてもくれないで。 あの後レイは、消息不明になった。予言のとおりにして。
「ルシードの魔力は、少し妙だ」 ラルアは藪から棒にそう言った。 「私はルシードが好きだ。性格は勿論だが精霊に干渉する力を持っているから」 魔力がなければ、人間は魔法を使うことも精霊を感じることもできない。 なのにルシードからは声が聞こえない。 「まるで何かに声を潰されているみたいだ。精霊を見るのに呪文を口にしても発動しないのはおかしい」 精霊は、魔法そのもの。自身の意志や感情で炎を起こしたり冷気を呼んだりしてしまう。 しかしそれでは世界の均衡が崩れる、だから精霊は求められない限り感情を表すことはない。してはならない。 「力を貸したくても、貸せない。それでも無言のものの頼みで物を凍らせるときは、 そこらへんにいる精霊と相談して自分の意志の下でやってるんだ」 あくまでも魔力のない人間に強制力はない。 しかしそれでも頼みを聞いてやるのは性格のよさか。 「それでもあいつの力になってやりたいから、嫁にしろと言ってるんだけどな」 ルシードは一人で先を行くから倒れたときにすぐ助けがこない。 たとえばそれが戦場だったとして。 いちいち他の精霊と事象の取り扱いを相談していては即戦力にはなれない。 自分から世界に干渉するには、理由が必要だった。 契りを結べば、守護という名目で力を貸せる。 「あいつを守ってやれるのは私しかいないだろう?」
「な……いつ、唱え……」 「唱えてない」 究極的に言えば、魔法は呪文を唱えずとも発動が可能だ。 要は身に宿した魔力を練り上げ、任意の形を織りなすことが出来れば魔法は完成するのだから。 古代において、呪文を唱えるというのは練り上げる形を想像し補助するための行為に過ぎなかった。 今となっては呪文を唱えられなければ発動も出来ない魔法使いが世のほとんどを占めているそうだが。 「お前は確かに、邪魔はしなかった。その首は繋げておいてやる」 「……彼を、君が殺すの」 「お前の決意を待つより手っ取り早いからな。待つ気もないが」 古代において、魔法が絶対的権力──それだけで生身に武器を宿した魔物相手に圧倒的優位を得る── の象徴足り得たのは古代の魔法使いには造作もないことだったからだ。 即戦力が求められる現代の魔法使いには忘れ去られた理論だが。 「人間の歴史を舐めていなければ、無詠唱とはいえ小手先の魔法に引っかかりはしなかっただろうな」 (そう呟いて、剣をすっと引き落とす。頭と胴を切断されてなお、生きているほど魔物も奇怪じみてはいない。 俺は魔物も人間も殺す。相手がどんな種族であるかは関係しない。どちらつかずなのだから) 『字の読み書き』が出来る者ならば、知ろうと思えば知ることのできる『常識』だ。 古代の歴史を考察している本ならば必ず見かける理論であり、中世への移行を語る本を紐解けば革命者たちが どのようにして無詠唱の魔法に対抗したかという事例は何千とある。 「殲滅の白き闇を従え、虚無の黒き光は突き進む。 ……汝は魔から出でし者、されど、魔は罪に非ず。 死して魂が生まれ変わることを何者も拒みはしない。 よき、旅路を……」 そして奴は魔物と人間の間に立つ聖者として浄化の言葉だけ絞り出した。 -------------------------------------------------------------------------------- 魔法をわざわざ、詠唱するのには理由がある。 意味を有する言葉を故意に組合せ、発動までの間詠唱者を護りと為す。 口にするだけで、呪文は脅威となる。 身振り手振りを加えれば、尚更恐怖心を煽る。 言葉には力が宿る。たとえ意味を持たない一つの音ですら力を持つのだから。
『したたか農民考』 農民1「おーい、うちの村の勇者がキメラ獲って帰ってきたとよ」 農民2「おお、キメラか。そら見にいかにゃぁな」 農民たち、広場へ“今回の収穫”を見に行く。 『ガヤガヤ』 農民1「おう、すごい人だかりだの。誰々来とるね?」 農民2「ありゃぁ、鍛冶屋の見習いと酒場のコックたちだな」 農民1「ん。珍しいことに雑貨屋の看板娘も来とるでねえか」 勇者「はいはい、キメラかっさばくよー。欲しい部位があったら言って頂戴ね」 鍛冶屋「獅子の牙と山羊の角。刃物を研ぐのにいいんだ」 コック「頭部以外の肉と内臓類全部。煮込むと美味いんだ」 雑貨屋「蛇の鱗と牙を頂戴。装飾品に加工するわ」 農民1「おお、どれもいいなあ。今日は外食にしよう」 農民2「んだな。で、嫁さんにゃあ包丁新調してやろう」 農民「それか装飾品を贈るのもいいわな」
『自己紹介』 靖「そういや、レイとはまだ自己紹介してなかったな」 何故二日目に自己紹介をやってるかというと。 一日目はレイが夕食前から屋根に上っていたから。 夜が明けて、ようやく降りてきましたのでね。 朝食の席にて初めてレイと靖の家族は顔を合わすことになるのでした。 しかし、靖の家族は全員揃ってるわけではありません。 靖の父親はガラス細工職人で、ここ数日工房で寝起きしてます。 一家の大黒柱が不在なわけですが、お構いなしに挨拶は始まるのでした。 靖「今台所で料理してるのがうちの母さん」 レイ「見ればわかる。正面にいるのはお前の弟」 そっけない返事ですが、内容は的確そのものです。 靖「こいつら双子なんだぜ。イチランセーとかいう」 レイ「……瓜二つの顔をしているな」 『ひょいっ、ひょいっ』 なんかまあ、さっき。靖の弟のうち一人がレイの手を掴もうとしました。 小さな手から逃れると、もう一人の弟が掴もうとしました。 そのどちらからも避けて、レイは手を机の下に隠しました。 双子「むー」 靖「おい、何やってんだよお前ら。さきに自己紹介だろ」 キュラ「いや、そういうもの……?」 何故に眼光鋭いレイの手を脈絡もなく掴もうとするのか。 それを一々気にしたりしません。幼児の扱いに慣れてますから、靖は。 末っ子のキュラには突っ込むべきところに見えても。 瑤「あーい。僕はひこまようだよ」 蒿「うーい。僕がひこまこうだよ」 双子「んで、にーちゃんは?」 見事に声がハモリます。これぞ双子のお約束。 レイ「レイ・イシャル=ディエフ・エルザット」 双子「へ? それ全部、にーちゃんの名前かそれ」 はい、実際にシェル国ではそんな名前です。 イシャル家に引き取られた孤児です。 ディエフは伯爵名、エルザットというのは当主のみが名乗ることが許される名です。 いうなら、なんとか三世のなんとかに当たる名前。 ミレーネの家は、没落貴族だったりしたもので。 そして養子として引き取られたレイしか生き残りがいません。 双子「覚えきれないよー!」 靖「つーかお前そんなに長い名前だったか?」 レイ「覚えきれなくて当然だ。……レイでいい」 双子「なら最初っから言うなぁー」 ぽかぽか、と双子はレイの胸を殴ろうとします。 しかしテーブル越しなので届きません。身を乗り出しても。 そんなわけで、二人は椅子から降りてレイのもとへ行きます。 で、挟み撃ちにするように机の下に隠された手を掴みにいきます。 『ひょいっひょいっ』 双子「なんで逃げるんだよ?」 キュラ「君たちはどうしてそこまで掴みたいの?」 キュラは、レイが人を殺せる者だということに勘付いてます。 だから何故双子がレイに触れたがるのか、不思議でならない。 別に優しい顔をしてるわけでもないし。 双子「掴みてーんだもん、レイにい」 レイ「手を掴むな。だが……袖なら、いい」 やった、と双子は黒コートの袖を掴むと満足げに笑いましたとさ☆ -------------------------------------------------------------------------------- 『俺の手は血に染まっている。子供に触れさせてはならないものだ』